ラブシーンの撮影

「ちょっと待って。カメラ止めて」
 ヒロイン役の弥生とその恋人役の広志、ふたりとも、さっきから全然動かない。高校生のふたりが初めてベッドをともにするシーンなので、ぎこちない方がリアリティが出るかと思って、動きを決めず、リハーサルなしでいきなりまわしてみたが、これはダメだ。
「なに固まってんのよ、広志。あなたがリードしないと始まらないでしょ? 」
「……ないんです」
 ルックスは最上級な癖にいつも自信なさげに小声で話す広志の声が、いまは一段と小さくて、何を言っているか殆ど判らないので、広志のすぐ横に座って顔を近づける。
「なにがないって?」
「リードした事、ないんです」
「え、あなた、体験豊富って言ってたでしょ?」
「30人くらいは体験してるのでそれなりだとは思うんですが」
「20歳で30人は全然多いよ。普段、あなたが攻める時のをちょっとぎこちなくする感じでやってくれればいいから」
「監督、僕の普段は……」
 広志の普段のやり方を聞いてさすがに驚いた。広志の普段のセックスは、いきなりフェラされて、気がついたら女性が上に乗っている。初体験以来毎回全てそのパターンで、自分の方から動いた事は一度もない。
 そんな男は小説やマンガでも見た事ない。
「でも、こないだの打ち合わせで、『ラブシーンの動き、任せちゃっていいよね?』って訊いたら、了解です、って、言ってたよね?」
「いつものように『弥生ちゃんに任せちゃう』って意味だと思って」
「だって、高校生の処女と童貞だよ。女の子に任せちゃうなんて、あえりえないでしょ?」
「僕は、いつもそうなので、そういうものだと……」
「ちょっと待った。本とか、マンガとか、映画とか、それこそ最近ならアダルトビデオとかで、普通っていうか、よくあるパターンのセックスの展開は見た事あるでしょ?」
「そういうのは苦手なんで見た事ないんです」
「一度も !?」
「はい」
「若い男の子って、最初はそういうのを見て、自分で性欲を処理するんじゃないの?」
「性欲っていうのが、どういうものか、そもそも、よくわかんないんです」

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この先の展開を考え中。
設定は1980年代なかばの大学の映画サークル。
監督は4年生の女性、主役の広志は3年生、ヒロイン弥生は1年生。
広志は恋愛にもセックスにも無関心、誘われたら応じるが特別な快感はない。
広志が普通になる(恋をしてちゃんと性に目覚める)のはありがちなので、
このキャラのままで展開させたいが、いいアイディアが浮かばない。
着地点は暴走なのか軟着陸なのか?
 

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