「山田太一未発表シナリオ集 ふぞろいの林檎たちV 男たちの旅路」国書刊行会 2023年発行 映像化されなかったシナリオ4篇収録。 お目当てはもちろん「ふぞろいの林檎たちV」。 「ふぞろいの林檎たちV」は連続ドラマではなく、スペシャルドラマの前後編。懐かしい旧友の顔が見られるクラス会の趣で、たいした話はないと言えばないが、やはり、できれば映像で見たかった。 ラストで良雄が幸子(兄嫁)に思いをぶつけるシーン、このシナリオ通りに、オマージュしたパート1の映像が挿入されれば、間違いなく涙腺は緩んだだろう。 良雄→兄嫁に告白、岩田→会社の不正疑惑・父親と和解、西寺→忍ぶ恋にケリをつける、とこの3人には一応話があるが、他のキャラにはこれといった話はない。冒頭の40代お見合いパーティーで偶然良雄と陽子が出会い、このふたりのいまさらな恋愛 !? と思ったらそれもない。良雄と晴江がふたりだけで会うシーンもない。晴江が看護師をやめて飲食店の仲居になっている以外は職業も変化なし(本田さんはよく判らない、前回までは在宅だったか?)「IV」の長瀬智也&中谷美紀のようなもうひとつのメインストーリーはない。 日常ドラマは、20代なら恋愛・友情・進路で引っ張れるが、その年代以降は家族・会社というくくりがなければ、キャラ同士が会う偶然・必然を作るだけでも大変。Ⅲは晴江、IVは良雄、今作は岩田が結構無理筋の狂言回し。 小学校時代からの幼馴染みなら、近所にみんなが集まるいきつけの店がある、という安直な方法で集合するシーンが作れるが、大学時代に知り合った仲間が40代になって全員集まるのは現実には結婚式か葬式以外では難しい。誰かの自殺騒動(「Ⅲ」の冒頭)で全員集合も現実にはなかなかありえなさそう。最初に結成したサークルは一度もまともに活動する事なく自然消滅するが、このサークルが卒業後も継続して、全員の副業になるという設定だったらどうだっただろう?「俺たちの旅」は卒業後に一緒に仕事をする話だったような。 「ふぞろいの林檎たちV」は画が浮かび声も脳内で響くので非常に読みやすかったが、他の3篇は、最近はシナリオを読んでない事もあり、読んでいる途中で「これ誰だっけ?」頻発で、スラスラとは読めなかった。 「男たちの旅路」はかなり前に1話だけ見て、鶴田浩二の長台詞の説教くささに辟易した事しか覚えていない。自分が鶴田浩二の劇中年齢に近い年齢になったいま見れば、また違う感想を持つだろうか。今作「オートバイ」は、バイクに乗る連中と話すなら、マンションの近所の道以外には本当に走る場所はないのか、サーキットで走るという選択肢はないのか、など、もっと突っ込んで欲しかった。 「今は港にいる二人」自殺した姉の復讐の為にヤクザのサラ金に殴りこもうとする話。山田太一は「ふぞろい」で良雄が幸子を秘かに思っている話をかなり以前から考えていたという。「ふぞろい」の場合は実の姉ではないが、弟が姉を思う話は、氏にとって秘めたるテーマなのかもしれない。 「殺人者を求む」松竹時代に初めて書いたシナリオ。星新一のショートショート風。ワンシーンで登場人物3人なので読みにくさはない。
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